風がなにかをそよがせる

そよ風というものが、とても好き。

そよそよ。

そよそよってそもそもなんなんだろ、
音でもなんでもないよなぁ。

たとえば、昼下がりに、網戸越しにふわっと、いや、そよっと、吹き込んでくる風。
私の顔や体を撫でていき。
いつでも眠りに落ちる準備が整う。あるいは眠らなかったとしても、目を閉じているだけで幸せ。

風鈴がチリリン、と鳴る。
風流だなぁ、というよりも、気持ちいいな〜。って五感が満たされて、喜んでいる感じ。

さわれない、でも触れられている気がする。
目には見えない。でもそこにあるようにはみえる。
味はしない、でも口を開けば吸い込める。
音は、あるかな。木や葉や、風鈴が揺れる音。でもそれだけではなくて、窓から吹き込むその風が、そよそよ、という耳に聞こえない音を立てている気もする。
においはしない。でも鼻から吸い込むのが一番気持ちがいい気もする。(変な粉の話ではない)

そよぐ、というのは、漢字で、戦ぐ、と書くらしい。少し古いようだけど。
そよ風、は微風と書くのがいまは主流だそう。微風というのはなんだかあまりそそられない響きだ。エアコンじゃないんだから。

それはともかく、何故そよぐ、に戦という字を使うのかにはいろいろな説があるようだけど、
いろいろ見た中で、印象に残ったのは、戦という字のへんとつくりには盾と矛という要素があって。意味としては、たたかう、おそれる、ふるえる。そのふるえる、から転じた要素ではないかという解釈。あるいは、戦において旗がはためく様子から、などという説得力のあるようなないような解釈もあり、結局はよくわからないのだけど。

ふるえるから転じた、戦ぐ、という言葉に、妙な人間らしさも感じた。

形があるようでないもの、でもたしかに感じるもの、それに名前がついていること、音を表す言葉があること。その漢字が意外とパンチが強い字面であること。考えれば考えるほどに面白く響いてきた。

そよそよ。
戦戦。そよそよ。

風が何かを戦がせる。

平和な情景なのに、
不穏な響き。

ここ数日で、日本中が抱いた、不安感をも思わせる。

そよそよ。
そよそよ。
窓から吹き込むそよ風。

それを幸せに感じられるような日本で、自分で、ずっとありたい。んだけどなあ。