【およそ3センチ角の日記】20160724 シュガー・ブルース

3cm

先週の話になりますが、またまたチェコ大使館で映画を見てきました。
ちょうど先週末から渋谷のユーロスペースで再上映され始めている、話題のドキュメンタリー映画「シュガー・ブルース」。
その公開に少し先駆けた試写会、そして監督も来るということで、昼の部に参加してきました。
パンフレットまでくれちゃうサービスっぷりに驚く。そしてチェコ大使館の映写室は何度来ても居心地がいいです。椅子も快適。

映画は、チェコのドキュメンタリー映画作家のアンドレア・ツルコヴァー監督が、第三子を妊娠した際に妊娠糖尿病と診断され、砂糖と自分の体と子供への影響を考え始めたことからはじまる。そこから、自分と家族の生活から砂糖を取り除く!という決心をして知る、その難しさ。スーパーマーケットでは、精製された砂糖が入っていない加工食品はなかなか見つけられない。特に熱心な料理家でもなかった監督も、様々な研究者や医療・食品関係などなどのプロフェッショナルに取材を重ね、自分たちの砂糖なし(シュガーフリー)の食生活を豊かにしつつ、砂糖にまつわる産業を取り巻く闇を暴いていく。

砂糖の歴史は、さかのぼれば紀元前4世紀にも記録が残っており、16世紀に入って大農園での砂糖精製が行われ大量生産されるようになるまでは、貴重な資源として、富の象徴や万病に効く薬として重宝されていた。今は食品や飲料に含まれ大量消費される時代となり、現代では万病を引き起こす「薬物」として問題視されている。この図式には何があるのか?
食品大手企業などは、「どういう味にしたら万人が病みつきになるか」という味を、研究者を雇って開発する。そして「どのようなマーケティングをしたら売れるか」を研究して売る。砂糖についての危険性は専門家が知らないわけがない。だけどそれを明るみにしたら製品が売れなくなるかもしれない。
例えば、ヨーロッパの欧州食品安全機関EFSAは、専門家の59%が食品業界と何らかの関係を持っていた。EU市場への食品の流通の可否を判断する機関も、企業と癒着がある。
たばこ税のように、健康に有害な嗜好品に課税するものの一つとして、特定の糖分入り飲料に課税する「ソーダ税」は、カリフォルニア州バークリー市で初の導入に踏み切ったが、その他の都市では飲料業界の激しいネガティブキャンペーンで頓挫してきた。それぞれのプロフェッショナルが目の前の仕事を遂行して、業界は政治にも深く絡み、それが人々の消費生活に当たり前のように影響しているという悲痛なサイクルができているのだ。

衝撃的な事実や場面を含む映画だけど、終始、絵的に楽しめる描写や印象的な演出も明らかに含まれていて、「リアル、演出なし」を描写するイメージのドキュメンタリー映画をさらっと覆している。妊娠中の検査場面や授乳の姿の女性的な生々しさや、途中、監督の両親が砂糖断ちをしている自分たちへの理解がなく、容赦なく砂糖たっぷりのお菓子を振る舞う場面で、お菓子を毒々しく撮っていたのも、誤解を恐れずに言えば「チェコ的」で、チェコ好きの私は勝手にちょっと嬉しくなった。そんな嬉しくなるような内容ではないんですが。
同じ場所で、ヴァーツラフハヴェルの映画を見ていたことも相まってか、周囲の当たり前と戦う革命的精神も含めて、強いチェコ人の姿勢をかいま見た気がした。

これはパンフレットのコラムに載っていたものだけれども、欧米では、パン、シリアル、ハンバーガー、ピザなどの「食事」そのものに多量の砂糖が含まれている。ソーダやお菓子など目に見えて砂糖が入っているもの以外に含まれる、「見えない砂糖」とよばれるものを摂取しているのだ。日本が欧米よりも肥満問題が深刻でない理由として、私たちが常食しているごはんやそば、うどんに砂糖は含まれていないということが大きいとのこと。とはいえ今の日本の食生活もどんどん欧米化しているし、私だって加工食品だらけで暮らしている。けれど、大学時代アメリカに10ヶ月留学していたとき、ピザやハンバーガーまみれの生活をしていたわけではないけれど、それでも数キロは太って帰国して、その後食事に気をつけたわけでもなく、普通に日本食を食べていたら体重や体型は元に戻った。あらゆるものに油がたくさん含まれていたのだろうなと思っていたけれど、見えない砂糖もかなり含まれていたのだろうな。

舞台挨拶では監督が、「砂糖は人を殺せる」という日本語のプラカードを持って登壇した。世界中の言語で「SUGAR CAN KILL」の運動をしている模様も映像で出てきた。生活を半ば犠牲にしてまで6年間取材を続けてきた監督の話を目の前に聞きながらも、帰りの喫茶店でケーキを頼んでしまいそうだなと考えている私。
完全にシュガーフリーの生活をするにはエネルギーが必要だけれど、ちょっとずつ減らしていく。つもり。
最近、自分の食べるものの成分表示を見るようにしている。
舞台挨拶で、「いつの間にか、しょうゆにも砂糖が加えられるようになっているのよ」と監督が言っていたけれど、それは本当なのかな?

SB01_main-700x393

「シュガー・フリーは、誰もが自分の食卓で始めることができる無血の革命」 byアンドレア・ツルコヴァー監督