【およそ3センチ角の日記】20161212 スウィートスウィートヴィレッジ

sweetsweet

うっかりアップしそびれていまして、完全に前後してしまいました。

今年10月頃から数回にわたって、池袋新文芸坐にて「チェコ・ヌーヴェルヴァーグの真珠たち」というテーマで何度かチェコ映画が上映されていまして。
チェコと言われれば基本的にとびつく私は、池袋にせっせと通いました。

チェコ映画史的な知識は全くないままで観たのですが、毎回上映後にじっくりとした解説があったのでとてもためになりました。
1965年頃のプラハの春の時代、検閲に縛られていたチェコ文化が花開いた頃に、古典的なものとも違う、主に若者たちを描いた新しいタッチのチェコ映画の名作がぽこぽこと世に出てくるように。そして埋もれていた東欧の文化が世界的にも届き始め、チェコ映画が数年連続でアカデミー賞外国語映画部門にノミネート・受賞もされたそう。
その後ソ連軍の侵攻により、厳重な検閲を受けることとなりこの時代の映画製作はかなり困難なものとなっていくも、例えばミロシュ・ホアマンなど外国に亡命した映画監督(「カッコウの巣の上で」など)は世界的な活躍を見せる。一方で、チェコ国内にとどまった監督や原作者の作家などは苦しい時代を強いられる。この映画の監督イジー・メンツェルもそのひとり。今年亡くなった体操の金メダリストのヴィエラ・チャスラフスカさんも同時代を生きた境遇としては似ているのかな。

今回の上映企画の第一弾として上映された「厳重に監視された列車」という作品は、物々しいタイトルとは裏腹に?実は青春ラブコメで。
重苦しいタッチではなく、どこかほのぼのとしていて笑ってしまう、愛らしい人間模様が描かれた映画。いやー本当にこれが面白く、美しい映画だったのです。はんこ屋としてもあのエロいはんこ使いは見逃せませんでした。(是非見て欲しい)

そしてこの日みた映画は「スウィート・スウィート・ヴィレッジ」。
ストーリーとしては、小さな田舎の村に住む、お人好しの青年(かなりとぼけている)の両親の遺産である家を周囲の人々が勝手に利用したり買収を企てたりとされる騒動が中心となっている。とはいえ、ストーリーを追うというよりは一人一人のキャラクターが良すぎて、その愛らしい人たちの生活や描写を見ているだけでとても幸せな気持ちになってくる。鳩やウサギをちょいっと締めて丸焼きにしたりソーセージにしたり、そして仕事の手を止めてビールを飲む人々の生活。しょっちゅう追突事故や故障を起こしているお医者さん。もらったイヤーマフ(音を遮断するイヤホンみたいなもの)を嬉しそうに身につけていてあまり周りの音が聞こえていない、とぼけたヒョロヒョロの長身の青年。青年に飽き飽きしてイライラしながらも面倒を見てくれるまん丸いシルエットのおっちゃん。そういう一つ一つがすべて愛おしく詰まっていて、何度でも見たくなる。ああ、もうすでにまたみたいけれど、この監督のDVDは高騰していたりとなかなか手に入りにくいのです。くうー。

以前千野栄一さんの新書の中で引用されていた映画のワンシーンがとても印象的だったのですが、この映画にまさにそのシーンが出てきて妙に感激!以下引用します。

日本でも公開されたチェコ映画『スウィート・スウィート・ヴィレッジ』の中に、トラックの運転手と医者がビールを飲む場面が出てくる。その台詞、
医者「これはうまい。階段の7段目が一番いい温度だって、カレル、どうして気がついたのか、教えてくれないかね」
運転手「長年の経験ですよ。6段目では温かいし、8段目ではもう冷えすぎ」
医者「なるほど」

『ビールと古本のプラハ』/千野栄一

まさにこれです。文章で読んだ時にはもう少し貴族的なやりとりというか、ちょっと鼻にかけたようなやりとり、あるいは職人的なものを想像していたのですが、
実際はオーバーオールを着たおっちゃんと遊びに来た友人のお医者さんが自宅の庭でほのぼのとビールを飲むやりとりでした。
そのくらいチェコ人はビールにこだわりがあるという象徴的な場面。でも考えてみたらおじさんのちょっとしたこだわりの行為なだけであって、かなり可愛くて愛おしい。

収拾がつかなくなってしまいましたが、今回のこの特集で、私はかなりイジー・メンツェル監督が大好きということがわかりました。
あー全部見たいです。まだ存命ということで、なんとか日本でももっと脚光を浴びてほしいものです。
とりあえず私は口を酸っぱくして言い続けようかと思います。イジー・メンツェル監督最高!と。